クロガネ・ジェネシス

第2話 猫と狼の亜人
第3話 アルテノスの人形師
第4話 激昂のアーネスカ
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第一章 海上国家エルノク

第3話
アルテノスの人形師



 それから一週間後。
 無事7日間の航海を終え、一行は船を降り、首都アルテノスへと足を踏み入れた。
「う〜え〜……やっと地面の上かぁ〜……」
「ほら、しっかりしてよレイちゃん!」
 もっとも1人だけ船酔いで気分を悪くしている男がいたが。言うまでもなく、零児である。零児は火乃木の肩を借りていた。
「ほら、顔を上げなさい。ここがエルノク国首都、アルテノスよ」
 言われて零児は顔を上げた。
 目に付くものはいくつもあるが、何よりも目に付いたのは、どれほどの高さを持つのか分からない巨大な2つの搭だった。
 恐らくアルテノスのどこにいてもそれは目に付くに違いない。
「あれか……天を貫く2つの搭ってのは」
 火乃木に肩を借りるのをやめ、しっかりと立ち上がりつつ、零児が言った。それに答える形でアーネスカが説明を始める。
「そうよ。あれがエルノク最大の特徴。通称『双子の時計塔』よ。エルノク国家誕生の際、双子だった初代エルノク国王が人間は1人では生きていくことは出来ない。2人以上の人間が支えあうことで生きていけることの象徴として、あれを作ったらしいわ」
「中に入ることはできるのか?
「もちろん出来るわよ。今や観光名所の1つになってるわ」
「ふうん」
「私……行ってみたい」
 シャロンが目を輝かせながら言う。これほどの巨大建造物を見たことがないからだろう。
「じゃあ、後であたしと見に行こうか?」
「うん」
「その前に宿をまず探そうぜ。色々動くのは、拠点を決めてからでも問題はないだろう」
「そうね。とりあえず、移動しましょう」

 歩きながら、一行はアルテノスと言う町を見て回る。 
 石造りの家々や建物が目に付く。それだけを見れば小さな島国か港町に見える。だが、いたるところに水路が設けられており、交通手段が主に船であることが分かる。
 ――ここで暮らすのは苦労しそうだ。
 零児は思う。主に船を見ながら。
 実際激しい船酔いに襲われている零児がここで暮らすためには、船酔いを克服する必要があるだろう。
「交通手段は船なんだな。この町」
 船酔いの感覚を思い出しながら、零児はアーネスカに問う。
「それだけでもないけどね」
「他にも移動手段があるの? 船しか目に入らないし、馬車が走っているわけではないと思うけど」
 そう問いかけるのは火乃木だ。火乃木もアルテノスを歩くのは初めてなのだ。
「馬だって必要なときは使われることがあるわ。だけど、この町では船と飛行龍《スカイ・ドラゴン》による交通手段がもっとも盛んね」
「確かに、空を飛んでるドラゴンもいるね」
 ネルは上空を見上げる。
 言われてみれば、確かに空を飛んでるドラゴンの姿も少なからず存在した。
「エルノクは渓谷の多いアダマンガラス国と並ぶ、有数のドラゴン大国でもあるのよ。それは海龍《シー・ドラゴン》を使って船の航行を行ってるところから見てもなんとなく分かるでしょ? もちろん、海龍《シー・ドラゴン》以外のドラゴンは、全部人間が外から持ち込んで調教してるんだけどね。だから、飛行龍《スカイ・ドラゴン》専用の調教師もいるわ」
「なるほどね〜」
 零児は感心の意を示した。
「あ、ここにしない?」
 アーネスカが立ち止まる。3階建ての宿屋だ。看板にはタイダローズと書かれている。
「いいんじゃないか?」
 一行はその宿屋に入り、受付を済ませる。手続きが済んだらロビーに集まった。
「じゃあ、これからの行動なんだけど、零児。あんたは亜人と人間の共存について研究している施設にいくって方向でいいわけ?」
 ロビーに全員が集まったことを確認して、アーネスカはそう切り出した。
「そのまえに行きたいところが一箇所ある。そこでの用事を済ませてからだな」
「どこに行くのよ?」
「ここに俺の義手を作ってくれるかもしれない人形師がいるんだ。その人に会いに行く」
 それは進が言っていたレットスティールと言う人間だ。失われた左腕が取り戻せるとあって、零児は楽しみにしていたのだ。
「人形師……? あたしは知らないわね……。あんた場所わかるの?」
「住所は知ってる。だからまずは足を運んでみようと思う」
「OK。ならあんたはその人形師の所へ行くってことで……」
「ああ。まだ日は高いし、今日のうちに言ってくることにする」
「分かった。あんた達はどうするの?」
 零児の行動が決まったところで、アーネスカは火乃木とネルとシャロンに話を振る。
「私は……」
「ああ、あんたは『双子の時計塔』が見たいんだっけ?」
 シャロンが何かを言いかけたところで、アーネスカはシャロンが何を求めているのかを察し、その続きを答える。
「……(コクン)」
「じゃあ、あたしが案内してあげるわ」
「ありがとう」
 シャロンは丁寧に頭を下げそう言った。
「ネルと火乃木はどうする?」
「私は適当にブラブラしてるよ」
「ボクは、レイちゃんと一緒に行動しようかな? 他にすることもないし」
「じゃあ、決まりね」

 それからは、それぞれ分かれて行動することになった。
 零児と火乃木は、アルテノスにいるというレットスティールをたずねるために、とある建物の前にいた。
 それは、このアルテノスでは珍しくない石造りの2階建て。どこにでもある民家のようだった。
「で、どう渡りゃいいんだ?」
「……さあ」
 零児と火乃木はその建物の前で立ち往生している。否、建物の前という言い方は適切な表現ではあるまい。
 正確に言うならば建物を繋ぐ橋の前で立ち往生しているのだ。なぜならその橋は崩落していたから。
 建物は孤立無援。船がなければその建物に移動することは出来ない。なんだってこんなところの居住しているのか理解に苦しむ。
「本当に住所ここであってるの?」
「ああ……間違いないはずだ」
「そもそもその住所ってどこで知ったの?」
「進さんが教えてくれたんだよ。絵地図と一緒に……」
「進さんの情報なら信じられるとは思うけど……」
 2人は首をかしげる。
「……仕方ないな」
 言いながら零児は崩落した橋から距離を取る。
「なんかいい手あるの?」
「進速弾破《しんそくだんぱ》で跳ぶ」
「え〜!? 危ないよ!」
 危険極まりない零児の提案に、火乃木は抗議の声を上げる。
「つったって他に方法もねぇだろう? 近くに船なんかないんだし」
「それはそうだけど……」
 零児は10メートルほどの距離を置いて、走る体勢を整える。
「じゃあ、ちょっと行ってくるな」
「……」
 火乃木は不安そうな表情で零児を見つめる。建物と橋の距離は目測で約6,7メートルほど。普通に跳んだところで到底届かない。
 零児は建物を睨み据え、ゆっくり走り出す。
「進速弾破!」
 スピードが最高潮に達したところで魔術を発動。足元から大量の魔術を噴射してさらに加速。
 そして跳躍。零児は高々と宙を舞った。
「……!」
 零児の跳躍は十分なものだった。後は無事に着地することさえ出来ればいい。しかし……。
「レイちゃん! 跳びすぎーーー!!」
 零児は跳躍しすぎた。あまりにも高すぎたために、建物の壁が眼前に迫っていたのだ。空中で動きを制御することなど出来ない。零児は成す術もなく壁に叩きつけられた。
「……いてぇ」
 そのままズルズルと建物の壁を伝い、地面につく。
 と、その時だった。
 建物の扉がキィっと小さな音を立てて開いた。
「ん〜?」
 現れたのは女性だった。アイスブルーの瞳。それと同じ色のショートカット。白い長袖のブラウスに黒皮のズボンを吐いている。整った顔立ちは丸眼鏡と合わさって知的な印象と雰囲気をかもし出していた。
「どちらさん?」
 女性はこともなげに呟いた。
 零児は顔を上げてその女性を見る。
「え〜っと、レットスティールさん……ですか?」
「そうだけど? お宅は?」
「お……私は、鉄零児と言います。進影拾朗《しんえいじゅうろう》という人に紹介されてここに来ました」
「進? ああ〜なるほど理解した」
 何かを理解したレットスティールは零児に背を向けた。
「話は聞いてる。入ってきな」
 そういい残し、レットスティールは建物の内部に入って行った。
「あ、はい。じゃあ、火乃木! ちょっと言ってくるなぁ〜!」
 零児もそういい残して続いた。
「レイちゃん……帰りどうする気なんだろう?」

「レットスティールさん?」
「レットかスティールのどちらかでいい。長い名前だからね。好きな方で呼びな」
「じゃあレットで」
 零児はそう答えながら歩く。
 レットスティールに導かれ、零児は建物の2階へと上がっていく。
 1階と2階。この建物はどちらも1フロアで1つの部屋になっている。つまりこの建物は2つしか部屋がない。
 レットスティールが2階へと昇り終えると、それに続く零児は、今までとはまったく別の世界に入り込んでしまったのではないかという錯覚を感じた。
 1階は普通の生活雑貨しかないありふれた部屋だ。しかし、2階にあったのはこれでもかと言わんばかりに並ぶ大量の人形だった。その全ては人間の姿を模して作られている。それだけならまだいいが、ここにおいてある人形はそのほとんどが生きた人間と同じくらい現実感があった。
 今にも動き出しそうなほど、人間にそっくりな人形。
 これだけ精巧な人形に囲まれてたら多分逃げ出したくなる。少なくとも零児は、長時間いたくない部屋だと判断した。
 レットスティールはその人形部屋の窓に軽く腰掛けた。
「すまないねぇ。苦労したろう?」
「え? 何がです?」
 少々唐突なレットスティールの物言いに零児は困惑する。
「橋だよ橋。壊れてるもんだから渡ってくるのに苦労したろうっていってるんだ」
「あ、ああ……、確かに苦労しましたね」
 正確に言えば痛い目を見たというべきかもしれない。
「いやね〜。壊れてるのは分かってたんだが、面倒くさくてねぇ〜。業者を呼べば金もかかるし、自分で直そうとしたら面倒くさいし、だからあのまんまなんだ」
 ――そんなんで食えているのか?
 零児は激しく疑問に思ったが、多分その問いかけは無意味だろうと思い、言わないことにした。食えているからそのままなのだと思ったからだ。
「さて、実は何日か前に進はここにきて、そのうち鉄零児っていう左腕のない男がくるから義手を作ってやってくれって言われてさ。見てみると、あんたがその鉄零児であってるんだよね?」
「そうです。進さんからの紹介状もありますが、見ますか?」
「一応見せて」
 懐から進の手紙を取り出し、レットスティールに渡す。それを丁寧に開き、一通り目を通してから、レットスティールは再び言葉をつむいだ。
「うん。間違いなさそうだね。じゃあ、早速義手製作についての話なんだけど……もちろんただでってわけには行かない」
 零児は生唾を飲む。技手を作るなんてそれなりに金が必要だ。目の前の女性がそれなりに腕のある人形師であるなら尚更。
「あんたは近々開催される、騎士選抜を兼ねた大武大会が開かれるのは知ってるかい?」
「え? いや、一応知ってるけど……なんで?」
 金の相談になるかと思いきや、突然武大会の話になりまたも零児は困惑する。
 ――金の話じゃないのか……?
 コロコロと話の内容をすりかえる人だと思った。
「いやさ、金は有り余ってるから要らないんだよね実は」
 ――じゃあ橋直せばいいのに……。
「その大会で、あんたが決勝戦に出場すること。それが報酬ってことでどうだい?」
「武大会で決勝進出が報酬? そんなことしてレットさんに何の益があるんだ?」
「それは秘密さ。大人の事情って奴でね。ただ、気まぐれで言ってるわけではないよ」
 ――本当か?
 有り余る金があって自分の家との通行手段もきちんと確保しないような人間の提案が、気まぐれによるものではないといってもイマイチ説得力がない。
「もちろん今すぐに義手を作ってこの場で渡すことなんて出来ないから、武大会の当日までには完成させて渡す。あんたはその大会の中で、義手の調子や自分にとっての使い心地やらを色々試して、私に報告してくれればいい。そのたびに、私は義手の調整をしてあんたに渡す。ただし、決勝進出前に負けたり、決勝戦で棄権したりしたら義手は没収。と、そういうことさ。その腰にぶら下がってるものが飾りじゃないってんならできるだろ?」
 レットスティールが言っているのは零児の腰にあるソード・ブレイカーという短剣のことだ。
「ハイリスク、ハイリターン極まりますねそれ……」
「あんたに戦う力がないってんなら、無理することはないさ。通常料金で技手の製作を引き受けてやってもいい。もっとも金貨7,800枚の出費は覚悟してもらうけど……」
「義手ってそんなにするのか!?」
 金貨7,800枚。無論零児にそんな金は出せない。旅をして食事のほとんどが外食であり、さらに宿泊の多い零児の財産などたかが知れている。今までだって旅を続けるための資金は、盗賊や山賊の類をぶちのめして強奪した金や、アスクレーターとして正式な仕事をチョコチョコとこなしてやりくりしてきたのだ。
「いや、一般的な医療用の義手なら金貨100枚もかからないさ。だが、あたしが作る義手は医療用ではない。あたしが作るのは、常に生身の人形だ」
「……??」
 言ってる意味がよく分からない。人形は人形である時点で生身ではない。生身の人形とは一体なんなのか。
「金で解決か、あたしのギャンブルに乗るか。あんたはどっちにする?」
「……」
 そんなの決まっている。金で解決など不可能だ。である以上選ぶ選択肢は決まっている。
「その前に1つ聞きたい」
「なんだい?」
「生身の人形とレットさんは言ったが、それはどういうものなんですか?」
「それはお楽しみさ。そもそも口で説明したところで理解できないだろう。いや間違いなく理解出来ないさ」
「あっそ……」
 なんとなく馬鹿にされたような、面倒くさがられたような気がしないでもないが、零児はレットスティールの言い分を聞き入れることにした。
「で、金かい? それとも……」
「ああ、大会に参加するさ。ようは勝てば良いんだ」
「ほう……勇ましいね。よし、じゃあ大会への参加手続きだけは済ませておいてくれよ。それすらされてないなら契約違反と見なすからね?」
「了解……」
「じゃあ、次にどんな義手を作るかなんだけど……」
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